ボクシングと聞いて思い浮かぶの事の一つに過酷な減量があります。
食事を制限し、水分をも断つ。
ボクサーはリングに上がる前に、減量という試練を乗り越えて自分に勝つ必要がある。
なぜ、そこまでして過酷な減量を強いる必要があるのでしょうか。
ボクサーが挑む減量の謎に迫ります。
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なぜボクサーは減量するの?
ボクシングをしない人は、ボクサーが過酷な減量をする意味が分からないと言います。
減量には「無駄な脂肪を落とし、スムーズな動き手に入れる」というメリットもありますが、脂肪だけを落とすのなら過酷な減量は必要ありません。
ボクサーの減量は過酷を極めます。
過酷なボクサーの減量
私もプロボクサー時代には8kgほどの減量をしていました。
普段は63kgほどある体重を55kgまで落とします。
本格的な減量に入るのは計量の2週間前です。
あまり早い時期から減量をすると、身体が疲れるのでハードな練習が出来ません。
なので2週間前までは普通の食事を取ります。
減量中の食事
朝:バナナとスポーツドリンク又は水
昼:ゼリー(ロイヤルゼリー含有など)
夜:納豆と米を少量
こんな感じです。
炭水化物を入れないと本当に身体が疲れて動けなくなるので多少のお米は食べます。
まだ、スパーリングもやる時期なのでこの辺りが心身共に一辛い時です。
1週間前の食事と練習
試合の1週間前になるとハードな練習はせずに身体の疲れを抜くことに専念します。
食事は更に減らします。
朝:ゼリーと水
昼:バナナ
夜:納豆
ここまでくるとカロリーとかの問題よりも食品その物の重さです(笑)
食べるものを手に持って体重計の上に乗ってどのくらい増えるかを考えながら食べたります。
練習で縄跳びをし石油ストーブの前で毛布をかぶってジッとしていると汗が出てくるので、そんな感じで体重を落としていきます。
僕の場合はまだ水が飲めます。
ここまで食事を制限して中々体重が減らない時期があります。
減量の停滞期
体重はある程度落ちたら、一向に減らない段階に入ります。
僕の場合は57kgが壁でした。
ここから中々落ちない。
その理由は身体の脂肪がなくなってきたからです。
使える脂肪がなくなれば、身体は筋肉をもエネルギーとして燃やしてしまいます。
そして筋肉は落ちにくい。
この段階に入ると食べものを更に減らします。
水分を断って体重を減らす
ボクシングの減量はダイエットと違って「体重を落とす」ことを優先させます。
ダイエットなら水分はどんどん摂取しても問題ないですが、ボクシングの減量は水の重さが命取りです。
最終的には水分をも断ちます。
減量をしていないときは水分を取った方が汗がよく出て体重が落ちますが、減量中は水分を摂取すると飲んだ分が体重になります。
僕の友人は軽量前に口の中がカラカラになったのでウガイをしたら、我慢できずにそのままゴクンと飲んでしまいました(笑)
ジムで体重計に乗ったときはパンツを穿いた状態でリミット丁度だった体重でしたが、ほんの一口飲んでしまったばかりに、軽量時にはパンツを脱いで体重計に上がっていました。
限界を極めた減量では、食べた物の重さがそのまま体重になってしまうのです。
高身長の軽量級ボクサーは更に過酷な減量
僕の先輩は63kgある体重をライトフライ級(47.61~48.97)まで落として世界チャンピオンになりました。
食事は、一日にスープ一杯のこともあったそうです。
また、真夏の車の中にサウナスーツを着て入ったりもしてました。
そこまで過激な減量を乗り越えて世界チャンピオンになるのですから、並大抵の精神力ではありません。
ではなぜ、そこまでして体重を落とすのでしょうか。
ボクサーの減量はパワーの問題
ボクサーが過酷な減量に挑む理由・・
それは「パワーの問題」があるからです。
ボクシングは階級制のスポーツです。
なぜ、階級制になっているかというと体格によるハンデを無くすためです。
ボクシングの階級
以下の表はプロボクシングの階級です。
表の右端の単位「lb」はポンドです。
アメリカでは通常ポンドを使うし、日本でもリングアナが選手をコールするときにポンドでウエイトを紹介するので記載しておきました。
122ポンド4/3とか言うアレです。
階 級 | 体重(kg) | 体重(lb) |
ミニマム級 | ~47.61 | ~105 |
ライト・フライ級 | 47.61~48.97 | 105~108 |
フライ級 | 48.97~50.80 | 108~112 |
スーパー・フライ級 | 50.80~52.16 | 112~115 |
バンタム級 | 52.16~53.52 | 115~118 |
スーパー・バンタム級 | 53.52~55.34 | 118~122 |
フェザー級 | 55.34~57.15 | 122~126 |
スーパー・フェザー級 | 57.15~58.97 | 126~130 |
ライト級 | 58.97~61.23 | 130~135 |
スーパー・ライト級 | 61.23~63.50 | 135~140 |
ウェルター級 | 63.50~66.68 | 140~147 |
スーパー・ウェルター級 | 66.68~69.85 | 147~154 |
ミドル級 | 69.85~72.57 | 154~160 |
スーパー・ミドル級 | 72.57~76.20 | 160~168 |
ライト・ヘビー級 | 76.20~79.38 | 168~175 |
クルーザー級 | 79.38~86.18 | 175~190 |
ヘビー級 | 86.18~ | 190~ |
ご覧のとおり非常に細かく分けられています。
ヘビー級が無差別級で、86kg以上あればヘビー級です。
先ほど、階級制の意味は「体格によるハンデを無くす」事と言いました。
ということは、そのままの状態であれば「ハンデがある」という事です。
体格で差がつくパワーの秘密
格闘技に限らず「力」という点に於いては身体が大きい方が有利なのです。
なぜだかわかりますか??
筋肉の断面積が大きくなるからです。
筋肉が多ければ、それだけ力が増えるんです。
体格とは骨格筋を指し、脂肪は筋肉の断面積に含まれません。
体格の利とはよくいったもので、殴り合うスポーツともなれば猶更です。
極端な話、ボクシングのヘビー級チャンピオンとミニマム級チャンピオンが試合をすればどちらが勝つかは明白です。
ヘビー級のパンチをミニマム級の選手が受けたらガードの上からでも吹っ飛ばされます。
余談ですが、私がプロボクサー時代には、私より階級が上(体重が重い)選手とスパーリングをすることがありましたが、トレーナーは3ラウンド以上はさせませんでした。
長いラウンドを闘うと身体の大きい選手が有利になるからです。
筋肉の及ぶ「力」というのは攻撃だけではなく、防御も含めた全体的なレベルにおいての力なんです。
攻撃 パンチ力
F=MA(ニュートンの第二法則) 力=質量×加速度という物理学の法則です。
単純な計算ですがパンチ力(攻撃)は体の質量が大きくスピードがあると強いパンチを打てます。
この式を素人が見れば納得してしまうかも知れませんが、実際にボクシングをしていてリングで闘ったことのある人なら「違うんじゃない??」って思ってしまいますよね。
体重が重くてもパンチ力が無い人もいるし、スピードあるけどパンチ力が無い人もいる。
ここでいう重さはどれだけパンチに自重を乗せられるかにあり、それを加速しながら打撃ポイントに当てられるかという点も含みます
元世界ヘビー級チャンピオンのジョージフォアマンのパンチは遅く見えます。
しかし、瞬間の握り込みに加速度があります。
身体全体の「遅さ」に騙されがちですが、瞬間のスピードは目を見張るものがあります。
絶妙のタイミングで瞬間的スピードを用いパンチをねじ込む。
だから倒れる。
【関連記事】【名言】人とエイジング「老いは恥ではないのだよ」ジョージフォアマンの拳に宿る魂
東京大学の石井直方先生も言うように、どんなスポーツにおいても加速度というのは非常に重要なんです。
マイク・タイソンの強さの秘密がスピードにある理由が分かると思います。
防御 耐える力
これも身体の大きい選手が有利です。
その階級ではパンチ力があっても、階級をひとつ上げるとパンチが効かなくなるというのはよくある話です。
そりゃパンチは痛いですよ。
プロのパンチですから、その辺のイカツイおっさんや兄ちゃんの気合いだけのパンチとは違います。
痛いのと効くのとは別です。
効くパンチというのは顔に受けたパンチが爪先まで伝わるのです。
ギンッ!となる感じ。
長谷川穂積 vs ファン・カルロス・ブルゴス
長谷川穂積 選手が2階級を上げてタイトルを争った試合は見事な内容でした。
真っ向から激しく打ち合う男の勝負に感動しました。
ですが、長谷川選手のカウンターやベストショットのパンチが当たっても判定までもつれ込みました。
その要因も体格差です。
辰吉丈一郎vsダニエルサラゴサ
バンタム級から1階級を上げて戦った辰吉丈一郎選手とダニエル・サラゴサ選手の一戦も階級の違いに苦しんだ試合でした。
バンタム級ではハードパンチャーであった辰吉選手も、一階級上げるとパワーの差はチャラにされました。
辰吉選手のパンチにサラゴサは耐えられるのです。
いつもなら仕留められていた辰吉選手の勝利のパターンが崩れてしまうのです。
なぜか?
それは、サラゴサ選手が辰吉丈一郎選手以上のパワーを持った選手と試合経験があるんでしょう。
力=質量×加速度だとするならば、相手よりも加速度が高くなると破壊力という面では同等かそれ以上になれる。
しかし、体格による耐える力を総合すると身体が大きい方が優位になります。
体格と減量
結果的にいえば「体格が大きい方が有利だからみな減量をする」という事です。
魔裟斗選手と山本KID選手の試合も、後半になればなるほど魔裟斗選手が有利になりました。
いかに体格が物を言うかが分かったと思います。
そう考えると、5階級とか6階級を制覇するチャンピオンがどれだけ桁外れかがわかります。
パッキャオがスーパーチャンプと言われる所以です。
軽量級と重量級の戦い方もまた違います。
増量は減量以上に難しいのが現状ではないでしょうか。
筋トレは専門的な知識を必要としますから、ボクシングのトレーナーもそれに見合った知識が必要となります。
世界チャンピオンでなければ食べていけない
ボクシングだけに限らずアスリートはトップレベルにならなければ食べていけません。
生活できるぐらいの給与体系にないのです。
でもこれは仕方のない話。
ボクシングでお金を稼ぐにはお客を呼べなくては話になりません。
お客を呼ぶために面白い試合をし勝ち進んでいかなくてはならないのです。
勝つためのボクシング・格闘技を考えると「体格が有利」な階級で戦うのが一番。
ということになり、みな過酷な減量をするんです。
ボクサーが減量をする理由 まとめ
最終的には少し現実的な話になりましたが、勝ち進むための戦略と考えてもらえればいいです。
しかし、身体が大きくても筋肉の割合で言うと体重が小さい人の方が高かったりします。
筋力÷体重で考えます。
身体をコントロールするのは「体重あたりの筋力」が高い方になります。
体操選手に小柄な人が多いのもそのためで、筋力をコントロールする力が優れているのです。
なので、身体が小さいから「弱い」ということではありません。
選手はみな勝利のための体重を模索しているのです。
また、世界のトップレベルに君臨できたとしても選手生命は非常に短い。
選手以外で過ごす時間の方が長いという現実も選手には待ち構えています。
いかに成功するか?は体重と密接な関係があると言えるのでしょう。
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