真の世界一を決めるボクシングのトーナメント。
世界チャンピオン同士が戦うWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)のバンタム級 決勝戦。
ノニド・ドネア選手 VS 井上尚弥選手の試合は互いのベルト掛けた世界タイトルマッチでもあります。
そして、激戦の末に優勝者の証である「モハメド・アリトロフィー」を手にしたのは我らが日本のスーパースター、井上尚弥選手です。
この試合が歴史に刻まれる一戦となりました。
井上尚弥 有利の予想オッズ
試合前の予想オッズは、井上勝利が「1.12」倍から「1.15」倍でドネア勝利が「5.1」倍から「5.7」倍と圧倒的に井上が支持されている。
しかし、試合はオッズほど簡単ではないと感じていました。
以前の記事にも書いていますが、このトーナメント(WBSS)でのドネア選手には底知れぬ力をあるように思えたのです。
それはドネア選手の見えぬ力・・「運」です。
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ドネアは導かれるように決勝までトーナメントを上がっていきました。
もしも、一回戦で井上選手とドネア選手が戦っていたなら、井上選手は今回の様に苦戦を強いられなかったでしょう。
決勝戦は兄弟で挑むダブルタイトルマッチです。
井上尚弥選手が「いつもの様に」動けるのか?
という心の引っ掛かりがありました。
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兄弟での世界タイトルマッチ
まず「兄弟でのダブルタイトルマッチ」が僕が引っ掛かった点です。
いままで大橋ジムの興行で他の選手が前座に出ていた事例はたくさんあったでしょう。
しかし、今回は違います。
前座で上がる選手が実の弟なのです。
以前、八重樫選手が井上選手の前座で倒されたときに、井上選手がすごく心配そうな顔をしてたんですよ。
それを見て、井上選手の先輩を思う気持ちと優しさを感じたのですが、その前座に身内の弟が出るのです。
これは冷静じゃ要られない。
拓真選手が勝てば波に乗れるでしょうが、負ければ空気が悪くなることは必至です。
それが僕が感じた懸念でした。
紳士的なノニト・ドネア
試合開始前のグローブタッチですが、ドネアはまず井上選手のトレーナーである父・慎吾さんに挨拶をします。
これを見るだけでドネアがいかに素晴らしい選手かが分かります。
日本の若いボクサーは見習って欲しいです。
だれでもタメ口でイキるバカなボクサーになってはいけません。
1Rは好調の井上尚弥
出だしは順調な滑り出しでした。
早いステップインからの強烈なパンチ。
ドネアに強烈な印象を与えた初回でした。
僕はこのとき、グラスゴーでの試合に似ていると思ったのです。
しかし、レジェンドはそんなに甘くなかった。
井上選手が犯したミス
2ラウンドの前半も井上選手はいいペースで飛ばします。
強烈なパンチをガードの上からでも見舞っていきます。
僕もこのまま井上選手のペースで試合が進むだろうと思っていました。
そして左フックで相手をぐらつかせたとき・・井上選手は笑みを浮かべます。
井上選手自身も「イケる!」と手応えを感じたのではないでしょうか。
僕が気になったのはその後です。
余裕の表れなのか、井上選手はガードをがっちり固めてドネアに打たせます。
これでパンチが当たらなければ、ドネアを更に飲み込むことができます。
何をやっても勝てない。
という印象をドネアに与えようとした井上選手の駆け引きだったように思います。
左ガードを下ろし余裕を見せる井上選手が徐々にペースを握り「いつもの試合展開」に持ち込んでいこうとしたその瞬間。
左ボディへ打つと見せかけたパンチはフェイントの左フック。
井上選手の顔面を捉えます。
ドネアの脇のしめ方見れば、この左フックがどれほど強いのかが分かる。
右目の上をカット
試合の流れを変えたのはレジェンドの左フック。
なんと井上選手は目の上をカットします。
私もボクシングの試合中に目の上をカットしたことがありますが、パンチで切れたことは一度もありません。
ああいうのって相手の頭がぶつかって切れるのです。
一瞬の左フック一発でカットさせている。
しかも相手は井上尚弥選手。
ドネアの凄さが分かる。
この後から井上選手がドネアのパンチを貰うようになるのです。
左フックの威力が井上尚弥にプレッシャーをかける
この一発のパンチが一気に井上選手を苦戦に追い込みます。
試合の流れ左フックを警戒することで止まってしまうのです。
動的な流れの中で試合を組み立てていた井上選手が、なかなかペースをつかめなくなる。
勝負の難しさを感じた瞬間でした。
鼻血を出す
僕は練習で打たれていたので中学三年の頃には鼻血は出ないようになしまたが、
井上選手は普段は打たれません。
だから試合でパンチを貰うと鼻血が出てしまうのです。
「いままでの違う」と井上選手が感じだしたのか、動きが前半よりも硬くなったように感じました。
4ラウンドも終盤にドネアに右のカウンターを打ち込まれます。
徐々にドネアにペースを奪われダメージを与えられます。
5ラウンドに井上選手のチャンス
5ラウンドは両者のテクニックが交錯する面白い展開。
ボクシングの高等技術を使う二人が技を競うラウンドでしす。
井上選手の右カウンターが一閃!ドネアがグラつきます。
強いパンチを打てる選手は一発で試合がひっくり返るので見ていて面白いです。
攻めまくる井上選手が獲ったラウンドです。
攻め込まない6ラウンド
この回は井上選手がどんどん前に出て仕留めに行くと思いましたが、ドネアのパンチを警戒してか前へ出ずにジャブからボクシングを組み立てます。
このラウンドも井上選手の左からの右、ワンツーや右のショートカウンターが的確にヒットしていました。
並の選手ならこのラウンドのパンチで倒れていると思いますよ。
それぐらいのパンチを当ててはいるのですがドネアは倒れません。
6ラウンド終了のゴングが鳴り、井上選手がコーナーに戻ると両足をグローブで叩いています。
この仕草はキツイ減量で足が動かなくなったときに井上選手がよくやっていました。
ひょっとしてグリコーゲンが切れたか・・・。
7ラウンドも玄人が好むボクシングが展開されます。
素晴らしい二人のテクニックです。
8ラウンドはまたドネアの強さを垣間見たラウンドでした。
また右目からの出血でペースが乱れていきます。
井上尚弥選手 最大のピンチ
そして迎えた9ラウンド。
井上選手の左ジャブを外してドネアの右ストレートがクリーンヒット。
続きざま左フック。
すさまじいドネアの攻めです。
クリンチをしにいった井上選手を初めて見ました。
しかし、ドネアも井上選手のパンチを意識してか前に出ません。
攻撃力というのはそれだけ脅威。
10ラウンド終盤から井上選手のパンチが当たりだします。
右のカウンターを合わせドネアの動きを止め、終盤にパンチをまとめてしっかりとポイントを取りました。
ボディーブローのダウンはオーバーカウント
11ラウンドも前半から井上選手が前に出てドネアを追い詰めます。
そして・・・・
右アッパーからの左のボディーブロー。
ドネアの腹に突き刺さりたまらずダウン。
しかし、まだ倒れる前のドネア選手の前にレフェリーが立ちはだかり、井上選手は攻め込めませんでした。
ここからストップウォッチで計りましたが、16.9秒です。
レフリー!コラー!
アウトです。
こういったところでも、ドネアの運があったと言えるかもしれませんね。
12ラウンドも井上選手が攻め切り、見事にWBSSトーナメントで優勝しました。
強運の持ち主だったドネア選手を前にしても、井上選手の強さには敵いませんでした。
今日の試合で井上選手は更に強くなります。
これからがもっと楽しみなバンタム級と井上尚弥選手です。
5階級制覇したノニト・ドネアの強さ
ノニト・ドネアの強さはやはり階級の壁を乗り越えて世界チャンピオンになった男の底力を見たと思う。
階級によるパワーを持つドネアだからこそ、井上選手のパンチに耐えられたのでしょう。
どういうことか説明しましょう。
ドネアが制した階級は5つ。
1階級:IBF世界フライ級王座(防衛3=返上)
2階級:WBA世界スーパーフライ級暫定王座(防衛1=返上)
3階級:WBC世界バンタム級王座(防衛1=返上)
WBO世界バンタム級王座(防衛1=返上)
4階級:WBO世界スーパーバンタム級王座(防衛3)
IBF世界スーパーバンタム級王座(防衛0=返上)
WBC世界スーパーバンタム級ダイヤモンド王座
5階級:WBA世界フェザー級スーパー王座(防衛0)
WBO世界スーパーバンタム級王座(防衛1)
WBC世界フェザー級シルバー王座
WBA世界バンタム級スーパー王座(防衛1)
ボクシングに限らず、格闘技では体が大きい方がパワーの面では断然有利になる。
それは以前書いた記事を読んでもらえれば分かります。
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バンタム級よりも2階級上のクラスであるフェザー級でもノニト・ドネアは世界チャンピオンになっています。
パワーで勝るフェザー級で戦った経験があるからこそ、ドネアは井上尚弥選手のパンチに怯まず、冷静に戦えたのだと思う。
ノニト・ドネアを強くした井上尚弥
僕が今回の試合を観戦して感じたのは間違いなく、井上尚弥選手がノニト・ドネアを強くしたのです。
井上選手は誰もが憧れる存在になっている。
ドネア自身も井上選手に「挑む気持ち」を持てたから、あそこまでの力を出せたのです
そして、今回の舞台がWBSSの決勝戦というのもまたドネアの気持ちに火を点けたのでしょう。
WBSSの決勝では、間違いなくドネア選手は強くなってきる。
井上選手の底を見せたノニト・ドネア
いままでその強さで「底が見えない」と評されてきた井上尚弥選手でしたが、ドネア選手が井上選手を追い込んだという結果に終わりました。
井上選手の終盤に仕留めるボディーブロー一閃は素晴らしいインパクトで鳥肌が立ちました。
それに耐えて最終ラウンドまで打ち合いに応じたドネア選手にも感動しました。
試合も人生と同じで交わる人間で仕上がり方が変わってくる。
そんな壮大なスケールの最高の試合だった。